「たいぴんぐDEテイミング!」より。
テイマー学校に入って半年が経った・・・
そして、今日と言う日はテイマーを目指しこの学校に入った者にとっては最高に嬉しい日・・・
オレもソレは例外では無いのだが・・・
「ねぇ?ねぇ?ルート君、ルート君は何をテイミングするの?」
同じクラスの女の子がそう声をかけてくる
「え・・・あ、はは・・・」
「私は鳥が好きだから、可愛い鳥系の魔物がいいなぁ~って思ってるのよ!」
彼女は本当に今日と言う日を楽しみにしていたように、テンション高くそう話す・・・
彼女にかぎらず今日は皆そうなのだ
「はい、皆さん、はしゃぐのはその辺で話を聞きなさい」
先生の言葉に沸き立ってたその場が静かになる
「さて、皆さんもこの学校に入学して、初歩の知識と技術を学びました、いよいよ本日テイマーとしての初の一歩を踏み出すわけです」
そう・・・今日は初めて魔物をテイミングする日なのだ・・・
在学中はパートナーとなる魔物を一匹だけ所持する事を認められている、今日がその一匹をテイミングする日
「説明は今まで散々して来たので解っていますね?ちゃんと上級生の言う事を聞いて、安全に行動して下さい」
去年までは、ある時期を越えると、生徒は好きに行動し1匹をテイミングしていたそうだが
ここ数年、何人かの生徒がムチャなテイミングをしようとして大怪我をした事があったらしい・・・
ソレを防止するために、今年からは上級生が同行する事になった、
上級生も、この下級生の保護が進級の必須科目になったらしく手を抜く事は出来ないらしい・・・
「上級生って何か怖いよね・・・あー、優しい人にあたればいいなぁ・・・」
周りではチラホラとそんな呟きが聞こえてくる、下級生と上級生の組み合わせは
男子には男子、女子には女子というのが決められているだけで、ランダムらしいのだ
「あ・・・ねぇ?あの人と組む人可哀想だよね?」
「え?ああ・・・あの天才?」
「そうそう、ウィン先輩・・・あの先輩天才らしいけど・・・なんかチョット普通じゃないというか・・・」
「いい噂聞かないよね~」
「なんだか、屋敷には怪しげな地下があって、ソコで魔物使って怖い実験してるって聞いたわよ!」
「やだな~、そんな人がテイマーだなんて・・・」
「でも、私達は女の子だから、当たる事ないわね、安心」
「でもさぁ・・・女の先輩にもちょっと感じ悪い人いるじゃない?」
「ああ・・・あのお嬢様でしょ?カレット先輩だっけ・・・」
「そうそう、有所あるテイマーの家系のお嬢様だか知らないけど、なんかエラそうで苦手だなぁ・・・」
「でもさ!連れてる兎の獣人さん、チョットかっこよくない?」
「あー!!!わかるっ!!私も思ってたぁ!!!」
「・・・」
女の子達のそんな能天気な会話を上の空で聞く・・・
別に誰と組もうが関係ない・・・俺はそんな事よりも重要な問題を抱えているのだ、、、
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「あの、ルートといいます」
「わーわー!!美味しそうなガキだぞえ~!!」
「あ・・・あの今日は宜しくお願いしますっス」
「おー!宜しくしてやるぞえー!!今日一日オレ様の事はピリオド様と呼ぶぞえ!!」
「は・・・はい・・・」
オレはナゼか、先輩テイマーに挨拶をする前に、先輩の肩に乗ってるカラスと会話している・・・
というか・・・
オレはチラっと先輩の顔を見る・・・
女の子達ほど噂話に詳しくはないが、この先輩の事は知っている・・・
「どうも、ウィンといいます、宜しくお願いします」
天才・・・ウィン・・・
学校に入学して、スグに耳に入ってきた先輩の情報・・・
その才能は桁外れで、卒業しているテイマー以上にスデにテイマーの実力は持っているらしい・・・
しかし・・・天才となんたらは紙一重というように・・・性格に難ありだとか・・・?
「・・・」
オレはもう一度、ウィン先輩をチラリと見る・・・
赤く長い髪に、キッチリと着込んだ黒いコート・・・肩にはやたら口の悪いカラス・・・
確かに・・・威圧感がある・・・でも・・・
「どうしました?別にそんなに緊張しなくても、本日のテイミングで死ぬ事はありません」
「え?あ・・・はい」
皆が噂するほど、変な人ではない・・・気がする・・・
「そうそう!難しくないぞえー!とっ捕まえてイジメちゃうぞえー」
「こらこら、ピリオド、苛めてはいけませぇ~ん」
どちらかというと、連れてるカラスの方がかなりおかしい・・・
「苛めるんじゃなくてぇ、愛でるのでぇ~す☆」
「ウィンの場合苛めるも愛でるも一緒だぞえ!」
「失礼な、一緒にしないでください☆」
「だいたい、ウィンは人間相手だととたんにテンションガタ落ちになるから面白くないぞえ~」
「仕方ないじゃないですか、進級必須科目なんですから」
「・・・」
唐突に始まった会話をボーっと見ていると、ウィン先輩が思い出したようにオレを見る
「ああ・・・すいません、気にしないで下さい~☆では本日の規約通りテイミングをしましょうか」
「規約?」
「はい、アナタはテイミングをする、私はソレを安全に終わらせるようにお手伝いをする、ソレが本日の目的
そして、ソレを遂行するための規約がいくつかあります」
「あ、はい・・・それなら解ってますっス
規約1、一匹以上をテイミングしてはいけない
規約2、契約の石は指輪タイプの物を使用する
規約3、人間の言葉を話す魔物をテイミングしてはいけない
規約4、上級生の指示に従う、、、以上が今日の規約っす」
「へぇ~、一語一句間違わず丸暗記ですね、その通りです」
「ねーねー、何で人間の言葉を喋るヤツを捕まえたらダメだぞえー?話せないと面白くないぞえー!」
カラスがカーカーと騒ぐ
「人間の言葉を喋るというのは、知能のある証拠です、未熟なテイマーは自分がテイミングしたつもりでも
逆に相手にテイミングされてる状況になっては困るからです」
「カラス君はよくしゃべるっすね」
「あたりまえだぞえー!オレ様、超頭いいぞえー!!・・・てっ!カラスじゃないぞえー!!」
カラスはバタバタと騒ぐ
「例外・・・もあります、学校に入学する前から所持さざる得ない魔物を持っている場合や、まぁ、私のように学長にOKサイン貰ってる場合ですね」
ウィン先輩はサラリと簡単なように言ったが、在学中に高等な魔物の所持許可を貰うには、かなりの力を所有してないとダメだという・・・
「先輩の実力は噂通りなんっすね、いまだかつて先輩以外に学長にそんな事を認めてもらった人はいないと聞きましたっす」
「・・・そうなんですか?じゃあ学長はウソをついてますねぇ~」
「え?」
「結構前になりますが、一人いたはずですよ?在学中からズバ抜けた実力を持ってた方が・・・」
「え?そうなんっすか?そういう噂は皆好きですけど・・・聞いた事ありませんっす・・・」
ウィン先輩は、面白い事を聞いたようにニヤニヤと笑っている・・・
「なるほど・・・学長、"奴”の存在をテイマーの汚点として消しましたか・・・」
何の事だろう?と思っていると、カラスが思い出したように言う
「そういえば、あの兎も人間の言葉話すぞえ~!」
「ああ・・・カレットのリーダさんですか?あれも例外の一つです、
お父様から譲り受けた魔物ちゃんらしいですので、所持を認められています」
「クソ生意気な口調で話すぞえー!!」
「あの口調が愛らしいんじゃないですかぁ~、萌え萌えですぅ~☆あ~、ピリオドと交換してもらえないですかねぇ~・・・」
「あはは、先輩のカラス君も可愛いっすよ」
「あたりまえだぞえー!!オレ様は最強にカワイイぞえー!!ってカラスじゃないぞえ!!
それに、オレ様はウィンにテイミングなんかされてないぞえ?」
「・・・?」
オレはキョトンとしてしまう、カラスの足にはちゃんと契約の石がはめられている
「あ・・・ああ、ルート・・・でしたっけ?そんな事よりも、アナタは今日何をテイミングするか決めているんですよね?」
ウィン先輩にそう言われて、再び気分が沈んでしまう
「え・・・あ・・・」
「どのあたりに生息している魔物ちゃんか解りますか?」
「・・・・・・」
「?」
ウィン先輩は怪訝な顔でオレを見る・・・
「なんだ?このガキ何を捕まえるか、何にも決めてないぞえ?」
「おかしいですねぇ~、今日という日は、すでに一ヶ月前から準備に入っているはずです・・・何をテイミングするかもスデに決めているのが普通です」
「このガキ、一ヶ月もボーっとしてたぞえ!とんでもないオチこぼれだぞえー!!」
「ソレはないと思います、ルートは先日の中間試験で学年中最高得点を取っていましたので」
「え?なんで知ってるんっすか?」
思わず聞いてしまう
「何でって?廊下に順位張り出されていましたので」
「あ・・・」
確かに、毎回試験の時は学年ごとの順位が張り出される
しかし、天才と異名の持つウィン先輩が、そんな順意表を見ている事が意外に思ったのだ
「お・・・オレのはマグレみたいなもんっす、ウィン先輩もいつも一番ですよね」
「じゃあ、私もまぐれという事にしておきましょう~☆」
ウィン先輩は少しイジの悪い笑みを浮かべる、
いつのまにか優等生という肩書きがつくようになったが、俺の場合はオチこぼれないように人一倍影で勉強をしているだけだ・・・
ウィン先輩はまるで、ソレを見透かしているようだ・・・まさか、ウィン先輩も影で努力を?
「・・・」
ウィン先輩をマジマジと見るが、その雰囲気からは余裕しか伺えない・・・やはりこの人の場合は天性の天才なのだとそう思う
「困りましたね~・・・ルート、あなた本当はもう決めているんですよね?」
「え?・・・な・・・なにがっすか?」
「何って?テイミングする魔物ちゃん」
「!?」
「え?そうなのかえ~?だったら、早くいっちゃえばいいぞえっ!!」
「だから、困っているんですよ、素直に言えない魔物ちゃんという事ですよねぇ?」
「・・・」
「えー!?何ぞえ!?そんなにエロい魔物なのかえ!!」
「そうなんですか?あ、マンドラゴラとか?あれはちょっとやらしいです」
「そうなのかえ?」
「ええ、土から出した下半身がエロイです☆フムフム、ルート恥ずかしがる事はありませぇ~ん
確かに、マンドラゴラは土に埋まってるので、いつも鉢植えに入れて持ち歩かないといけない魔物です
叫び声がうるさいだけで、何の力もありませんし・・・
しかぁーしっ!!その拘りが大事なのです!!魔物ちゃんは強さじゃないのですっ!!
テイマーがいかにその魔物ちゃんに愛情を注げるか!?ソレが大事なのですっ!!
それに私は確信しています・・・いずれ、マンドラゴラプレイが世間の男子に流行る事を!」
「なんぞえー!!!オレ様も興味しんしんだぞえー!!!マンドラゴラをつかまえるぞえー!!」
「ちがいますっす」
何やら、勝手に進む話を一言で突っ込む・・・
なんだかウィン先輩が変だと言うのが少し理解できてきた気はする・・・
しかし、逆に緊張も解けてきて意を決する・・・
そうだ・・・バカな事をと怒られてもいい・・・とにかくオレは今はこの人に頼るしかないのだ・・・
「?」
真剣な顔でウィン先輩を見て言う
「先輩・・・実は・・・オレ・・・もうテイミングする魔物を決めていて・・・」
「なぁ~んだ、だったら早く言うぞえ!何のジラシプレイだぞえ~!」
「・・・すいません・・・ただ・・・その・・・その魔物というのがっすね・・・」
オレはゴクリと一息飲むとウィン先輩の目をまっすぐにみて言った
「竜族なんっす」
「・・・」
ウィン先輩は無表情で黙っている
「あ・・・あの・・・と言っても小さいんっすよ?!実はその・・・テイマー学校入学前からソイツとは友達で!
その・・・あの・・・竜族の力は知ってます!で・・・でも、ソイツは全然まだ小さくて力は無いんっすよ!?」
竜族の事はテイマーでなくても知っている・・・人間よりも高等で、強大な力を持っている・・・
その竜族をオレはテイミングしたいと言っているのだ・・・
ソレはつまり、解りやすくいうなら、犬に人間が飼われているようなもの・・・
もしも、言ってるのがオレじゃなく違う人間ならオレだって唖然とする・・・いや、冗談としか思えない
でも、オレはいたって真面目だった・・・
だから、この途方もない事を今日という日に形にする最大の努力をしなくてはいけなかった・・・
しかし気が付くと、子どものような弁解の言葉を並べただけだ・・・
「・・・」
ウィン先輩は、顎に手をやって真剣な顔をしている
何をバカな?と言われるのだろう・・・ソレを覚悟した、
しかも相手は天才と呼ばれるウィン先輩だ・・・反論など一切出来ない言葉で一喝されるのだろう・・・
「何を・・・」
ああ・・・やっぱり・・・と落胆する・・・
「何をそんなにシブッているんですか?」
「・・・え?」
「今の話だと、スデにもうテイミングできる状態のなついてるチビ竜がいるんですよね?じゃあ、逆に簡単な事じゃないですか?」
「え?え?」
唖然とするオレをよそに会話が進む
「あれ?もしかして、竜なのに人間語喋れるんですか?」
「え?・・・いえ?喋れないですが・・・」
「なんだだぞえ~!このガキやっぱりジラしプレイしてたぞえ!!小生意気ぞえ~!!」
「え?・・・ルートそうなんですか?・・・あ~私とした事がジラされちゃいましたぁ~☆」
テヘッといかにも作った感じで舌を出すウィン先輩・・・
「え?って・・・先輩?あの・・・竜ですよ?ドラゴンですよ?」
「はい?解ってますよ?規約違反じゃないですしいいんじゃないですか?」
「え・・・?規約・・・?」
キョトンとするオレを見て、ウィン先輩は上着のポケットから規約の書かれた紙を出してしばらく眺める
「・・・どう見ても、規約にひかかりそうな部分無いですが?」
「で・・・でも、竜ですよ?竜族ですよ・・・?先輩、竜族の事知らないわけじゃ・・・」
初めてそこでウィン先輩はムッとした顔をする
「私が知らない訳ないじゃないですか、人間・魔族・天界族よりもスグれているのが竜族です」
「オレは、ソノ竜族をテイミングしたいって言ってるんっすよ?」
「だから、竜族をテイミングするのは不可能に近いですが、ルートはスデにテイミング出来る状態の竜を持ってるんですからいいじゃないですか?」
「・・・」
否定されなくて嬉しいハズなのに、何だか逆にふに落ちない・・・
そんなオレを見てウィン先輩はヤレヤレと言う感じで続ける
「ルート、勘違いしてませんよね?今回の規約ではなく、テイマー事態の規約でも、テイミングしてはいけないのは“天界族”だけです
その他の種族のテイミングは、テイミングの条件を満たしていればテイミング可能なんですよ?」
「何で、天界族だけダメなんだぞえ~?」
「過去の3つの種族戦争の関係です・・・世界を区切りましたので、ソレはお互いを干渉しあわないという意味です」
「魔族はいいぞえ?」
「魔族は遊び半分で勝手に人間界に来ますので・・・そういうのは魔界公認でOKが出てるんです」
「遊び半分じゃないぞえー!!」
カラスはカーカーと怒り出す・・・魔族の事で何でただの鳥系の魔物が怒るのだろうか?・・・
「ルート、竜族について教えてあげます・・・
過去、竜族と一番いい関係を築いていたのは人間です、竜族が背に人を乗せ大空を飛んでいた時代があたりまえのようにありました」
ウィン先輩はどの講師も教えてくれなかったような話を語りだす・・・
「しかし、人間・魔族・天界族は領土争いを行うようになる・・・どの種族がもっとも優れているか?そんな事を競いだしたのです
そして、人間は自分達と最も信頼の深かった竜族達に言うのです“人間のために友として力を貸してくれ”と・・・
竜族の答えは悲しい鳴き声一つでした・・・
それ以来竜族は人間にも、魔族にも、天界族にも誰にも理解出来ない言葉のみを残し、他の言葉はすべて捨て去ったのです・・・」
「・・・それは、つまり、誰の側にもつかないという事っすか?」
オレの問いにウィン先輩は頷く
「ええ、彼らは争いを好まなかったのです・・・
彼らは、ソレ以来世界の片隅に姿を消した・・・ソコが人間界なのか、魔界なのか、天界なのか、判別がつかないようなそんな小さな場所に・・・」
「どの種族よりも、高等で力があるのに・・・その竜族が一番世界の隅に追いやられるなんて・・・」
「ルート、言い方が違います、それこそが彼らが高等で力がある証拠です」
「高等で力があるゆえにバカな争い自体をしなかった・・・」
オレのその言葉にウィン先輩は満足げに笑った、、、
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「チビ竜はドコに隠してるんですか?」
「・・・学校の寮の部屋に」
「入学してからずっと?よくバレませんでしたねぇ~?」
「はい・・・よく言う事を聞くヤツなんで」
「そうですか、では、ソノ子も貴方の事が大好きなんですね」
「・・・でしょうか?あいつは小さいので、何も理解してないだけだと思います・・・」
オレは俯く・・・
「・・・まぁ、とにかく寮に向かいましょう」
歩き出したウィン先輩の後ろを歩く
「ねーねー?竜族の子どもなんてどうやって手にいれたぞえー?」
先輩の肩に乗るカラスが興味津々という感じで問う
「森の奥で卵を見つけたんっす」
「では?卵からかえしたのですか?」
先輩も前を向いて歩きながらそう問う
「はい・・・まさか、竜が生まれるとは思いもしませんでしたっすけど・・・」
「しかし・・・今までよく竜を無事に所持できましたねぇ?子どもの竜なんて闇売買で一体いくらの値がつくか・・・」
「・・・・・」
「あー!今の反応、無事に所持できてた訳じゃアリマセンー!って反応したぞえ!!」
「そうなんですか?」
オレはここまで来たらこの先輩に隠し事などする気分も無くなっていた・・・
「実は、オレ・・・両親というものを知らなくて・・・物心ついた頃に里親はいましたが・・・」
竜とは関係の無い話を話し始めたオレに呆れてるんじゃないかと思い、
ウィン先輩の反応を伺うが、ウィン先輩は黙って歩みを進めている・・・オレの話に耳を傾けてくれているようだ
「その里親は優しくはなかったっす・・・いや!もちろん、オレなんかを引き取って育ててくれたのは感謝してるっすが・・・」
「いい思い出はないんですね?」
「・・・はい・・・朝から晩まで働いてる思い出しかありません・・・そんな中でオレはだんだん自分という人格を無くしていきました・・・」
「物心ついた時からそんな生活じゃそうなっても仕方ありません」
ウィン先輩は淡々とした口調だが、決してオレの話の腰を折らない、そんな的確な返答を返してくれる・・・
「・・・唯一心が休まる場所といえば、誰も来ないような森の奥でした・・・」
「ソコで卵をみつけたぞえ~?」
「そうっす、何が生まれるかなんてどうでも良かったっす、ただ手で触れたら暖かくて・・・すごく安らいだのを覚えてます」
「でも竜が生まれてビックリだぞえー!」
「・・・実は、当初のオレは竜がそんなにスゴイ存在だって知りませんしたっすから・・・チビって名前つけて普通に遊んでました
・・・だから結構スグにオジさん、オバさんに見つかってしまって・・・」
「・・・生活が変ってしまいましたか?」
オレはその頃の事を思い出して、深いため息を吐いて続ける
「はい・・・竜をオジさんオバさんが見つけるなり・・・売り飛ばすと・・・」
「でしょうねぇ~」
「普通だぞえ!大金ガッポリだぞえ~!!」
「でも・・・オレはそんなの絶対に嫌で・・・初めて反抗したんですが・・・」
「虚しい努力に終わったぞえ?」
ウィン先輩の肩に乗ったカラスがオレの方を見て楽しげにそう言う
「それはもう何を言っても無理などころか・・・オレをしばらく遠くに働きに出そうという話にまでなって・・・
だから・・・逃げ出しました・・・チビを連れて・・・とにかく遠くへ・・・」
「ルートにとって、大事にすべき存在がハッキリしたのですね?」
「・・・はい・・・俺はチビといる時だけが心が落ち着いて、本当に心のソコから素直に笑えたっす・・・
たぶん、チビに会わなければオレは笑い方とかそういうの忘れてしまってたっす・・・」
「よくテイマーになるという思考を思いつきましたね?」
「・・・お金も無くて途方も無くなって町を歩いていた時に、ビラを目にしたっす・・・」
「ビラ?テイマー学校生徒募集?そういうのかえ?」
「いえ・・・犯罪者を捕まえたものに多額の賞金を出すという内容でした・・・
オレはその内容よりも、ソコにのってた写真に目がいったっす・・・」
「赤い竜を連れた男の写真ですよねぇ~?」
「お?ウィンも知ってるのかえ?有名人だぞえ!」
「・・・その犯罪者がウンヌンという事よりも、竜と一緒に生活している人間がいる!単純にそう希望を持ったっす・・・」
「そいつ何者ぞえ?」
「デリートっていうテイマーですよ、卑怯な手で竜族をテイミングして好き勝手に快楽殺戮してる頭のおかしいやつですよ・・・
ついでに言うと、先ほども少し奴の話題は出たのですが・・・まぁコレ以上は奴の話は気分が悪いのでいいです」
あまり感情を表に出さないウィン先輩が珍しく露骨に嫌悪感を表情と口調に出している・・・意外に思いながらも俺は自身の話を続けた
「そうです・・・でも、オレはそのビラのおかげで、テイマーという職業の事を知りました・・・」
「ソレでテイマー学校に来ればチビ竜と仲良く生活が出来ると思ったのですね?」
「はい・・・成績優秀者は特待生として入学金などが免除と言う事でしたので・・・それで、誰よりも勉強を頑張りました・・・
しかし、入学してみると、竜族を所持すると言うのはとてつもなく現実離れしている事を逆に知ってしまう結果になって・・・」
「今日という日まで結局コソコソと行動してた訳ですか・・・」
「はい・・・」
ウィン先輩はヤレヤレという感じでため息を吐く
「・・・先輩?先輩は・・・すごく思考が・・・その・・・柔軟なのは判ります・・・でも、実際竜族を所持して周りの人達は理解をしめしてくれるでしょうか?」
「今、柔軟って言い方したけど、わかりやすく言うと“ウィンはチョット頭変だから”って言う事だぞえ~」
カラスがご丁寧にも心でちょっと思った事を口にする・・・
「別に、私は柔軟でも変人でもありませんよぉ~、逆に周りが頭固すぎなんですよ」
ウィン先輩はソコで足を止めると、振り向く・・・その顔は少し真剣だ
「・・・ルート?あなたはその竜と一緒に生活をしたくはないのですか?」
「え?したいっす!!オレはそのために、スベテを捨てる覚悟をしてココまでやってきたっす!!」
「なら、ソレでいいじゃないですか?周りの事なんて気にしなくていいですよ・・・
あなたは別に規約違反をしている訳ではありません、アナタが正しいと思う事を批判されるならさせておけばいいのです」
「で・・・でも・・・オレに竜族を所持する技量があるのかが・・・不安っす・・・そもそも、チビはオレなんかといていいのでしょうか?
・・・仲間の元に戻してあげた方が・・・」
貯めてた不安が一気に押し寄せてきて、ついつい言葉があふれ出る・・・
「やれやれ・・・ルート、竜族について少し勉強不足ですよ?
竜族はそんなにバカではありません、いくらチビでも自分の故郷に戻る事くらい簡単に出来ます、
ソレをせずにアナタのソバにいる、ソレの意味解りますか?」
「え・・・じゃあ・・・」
「そうです、チビ竜もアナタと一緒に過ごす事を選んだのです、
ソレにアナタが答えられる自信が無く、周りの目が気になるというのなら、今のうちにソレをソノ子に伝えなさい・・・
アナタの事を信頼している竜です、アナタのタメに自身の故郷に戻るでしょう」
「あ・・・」
オレは・・・オレの事ばかり考えて・・・チビの方が人間界でオレなんかと一緒にいるのは危険なのに・・・
ソレを承知でオレのソバにいる事を選んでくれたのだ・・・
「どうするのですか?」
オレの意志を確認するように再び先輩が問う
「・・・先輩・・・オレ・・・チビを守れるような・・・そんな強いテイマーになりたいっす・・・なれるんでしょうか?」
「なれるかどうかなんて、私に解る訳無いじゃないですかぁ~」
「・・・」
「でも、アナタはテイマーとして、学校などでは教えてくれない
・・・しかしもっとも大事な部分に気が付いているので見込みは大いにあるんじゃないでしょうか?」
「・・・もっとも大事・・・?」
「ええアナタは今 "テイミングした魔物を守りたい” と言いました、
こんなあたりまえみたいな事を実はほとんどのテイマーは履き違えています・・・
テイミングした魔物は自身を守る僕だと思っているアホなテイマーが最近多いんですよぉ・・・
ソレではダメです、そんな思考ではいずれぶつかる壁を超える事はできないでしょうねぇ~」
「壁を越えないと強くなれないぞえ?」
「あったりまえです~、そんなのテイマーじゃありません、ただの主人とペット以下です」
「・・・」
オレはこの時、呆れるくらい呆けた顔をしていた・・・
ウィン先輩はオレのその顔を見るなり、ニヤニヤと笑って言う
「ルート、自身が少し前まで何を悩んでいたのか?バカらしくなりましたかぁ~?」
「ほんとほんと、バカだぞえー!悩まなくていい事で何年も悩んじゃって!人間ってバカだぞえー!!」
カラスが楽しそうにバサバサと羽をバタつかせた・・・
確かに、今ウィン先輩が言ったようにチビの事で悩んでいた自分が小さな事で悩んでた気分になったのはある・・・
しかし、ソレ以上に、ウィン先輩についての世間の噂をなんとなく鵜呑みにしていた自分に呆れていたのだ・・・
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「オチビさんよかったですねぇ~、コレでアナタはルートと正式に町の中を闊歩できますよ」
チビのツノにつけた契約の石を見てウィン先輩はそう言う
「今度、町にあるオレ様行きつけのバーに連れて行ってやるぞえ」
カラスがチビの肩を抱くように羽を広げる・・・
その光景はとても楽しいはずで・・・オレも本来なら笑って見ている光景のはずなのだが・・・
「ルート、まだ浮かない顔してるんですか?」
ウィン先輩のその言葉に俯く・・・正直オレはまだ不安でイッパイなのだ・・・
オレはウィン先輩のような天才じゃない・・・この先、チビと一緒にいて本当に大丈夫なのだろうか?
「別にいいじゃないですか?アナタは今まで散々悩んで来たのでしょう?」
「・・・」
ウィン先輩がオレの心を見透かしたようにそう言う
「そして、悩んだ末がチビとの生活だったのでしょう?」
「・・・」
「今日から、ソレが当たり前の日常になるのです、一緒の空をいつでも見上げて同じ景色を同じ視線で楽しめるのですよ?」
「え・・・」
オレは空を見上げる・・・ソコにはいつも見る青空が広がっていた・・・
「ピーピー」
肩に乗っていたチビはオレの視線に舞い上がり少し上を嬉しそうに旋廻する
いつも見ていた空なのに、チビが視界に入るだけでこんなにも気持ちは変るものか?
「今、あなたが持った感情をチビ竜も持っているはずです、チビは素直ですね?あんなに喜んで?
もったいないですよぉ、せっかく夢が叶ったのに、そんな顔してたらぁ~」
「・・・・・・でも先輩・・・皆どんな顔をするっすかね・・・?竜をつれて帰ってきたら・・・」
オレの気分は学校が近づくたびにやはり落ちてしまうのだった・・・
門をくぐると、ソコには様々な魔物を連れてはしゃぐ生徒達・・・
皆は他の者が一体何をテイミングしたのか興味しんしんだ・・・
「・・・え?・・・ちょっと・・・」
「お・・・おい?あれって・・・」
「え?あれって・・・竜じゃないよね?」
ヒソヒソというにはあまりにも大きな驚きの声が周りで飛び交う・・・
講師に無事に戻った事を報告するためにウィン先輩は生徒の間を縫うように歩みを進める
生徒とスレ違うたびに、何かしらの言葉が周りから返ってくる・・・
「ね・・ねぇ?竜って凶暴なんじゃないの?」
「そうそう、確かデリートとかいう殺人鬼がつれてるのも竜だもの・・・」
「なんでそんなのテイミングしてるんだよ?」
そんなヤツと俺のチビを一緒にしないでほしい・・・
しかし、オレも他人なら同じことを言っていたに違いない・・・
浴びせられる言葉に耐えられなくて、地面を見て歩くしかない・・・
「どうせウィン先輩でしょ?」
「やっぱりあの人、変なのよ・・・どういう方法か知らないけど、後輩イジめて楽しんでるのよ」
「そうよね、だって、ルート君は優等生で竜なんかテイミングする性格じゃないもの!」
「わー、ちょっとルート君かわいそう・・・」
え?え?・・・なんでそんな事になるんっすか?・・・
むしろウィン先輩はオレの好きにさせてくれたんっす・・・
というか・・・ウィン先輩は皆が言うような、そんなイメージの人と違うっす!
さっきまでは皆にどんな眼で見られるかが怖くて上げられなかった顔なのに
今は周りの生徒達に何か言ってやりたくて思わず顔を上げる
が・・・オレだけにしか聞こえないような声で前を歩くウィン先輩がいう
「言わせておきなさい、周りが何を言おうと、どんなイメージを持とうと別にいいじゃないですかぁ?」
「・・・先輩・・・」
ウィン先輩はあたりまえのようにそう言う、ウィン先輩にとっては日常茶飯事の周りの反応・・・
オレはその背中を見てついつい口にしてしまう
「先輩?・・・先輩は何でテイマーになろうとしてるんっすか?」
ウィン先輩は少し振り返って意味ありげな笑みを浮かべて言う
「魔物ちゃんが好きだからでぇ~す☆」
「え?・・・ソレだけっすか?」
「いけませんか?」
返された問いに少し驚いてしまったがスグに思考が切り替わる
「いえ!ソレだけで十分・・・むしろソレ以外の理由はいらないっすね!」
オレはなんだか嬉しくなってエヘヘと笑う
「あ、やっと笑いましたねぇ?良かったです~、今日という貴重な日はもっと感動の思い出で残しておくべきです☆」
「・・・」
実はその時、そう言ったウィン先輩の方こそ今日始めて見せてくれたような穏やかな笑顔をしていた・・・
そうだ・・・ウィン先輩は解っていないだろうけど、オレは今日忘れられない二つの大きな出来事があった・・・
一つはチビと同じ世界を共有出来るようになれた事・・・
そしてもう一つはウィン先輩に出会えた事・・・
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「せんぱーいっ!!」
オレは校舎の廊下を走って先輩に駆け寄る
「ぎゃー!!また煩いガキが来たぞえー!!あの日以来アイツなれなれしいぞえっ!!」
「・・・・・・」
ウィン先輩も呆れたようにオレを見る
「先輩!聞いてください!チビが火を吐けるようになったんっすよぉ~!まだライター程度ですけど」
オレはエヘヘと笑う
「なんぞえー?タバコの火つけるのに丁度いいぞえー!今度貸すぞえ!」
「え~?カラス君はカラスなのにタバコ吸うんっすか?そういえばお酒ものむし・・・」
「オレ様大人だから何でも吸っちゃうぞえー!というかカラスじゃないぞえ!!」
あの日以来学校で先輩を見つけるたびに、こんな日常があたりまえになっている
そのたびに、周りの生徒達が物珍しい顔をして俺たちを見て、ヒソヒソと話すのだ
先輩はそんな様子を見て少し挑発的に言う
「ルート、私なんかになついていたらアナタも変り者にみられちゃいますよ~?
せっかくの優等生の肩書きが台無しになっちゃいますよぉ~☆」
「そうだぞえー!お前も変人っていわれるぞえー!!やーいやーいだぞえー!」
「別にいいっすよ?」
「・・・え?」
「だって、周りの事なんて気にするなって言ったのは先輩じゃないっすか!
オレが正しいと思う事を批判されるならさせておけって!オレはオレの尊敬する人を尊敬する!それだけっす!」
「・・・・・・」
そのときウィン先輩が見せた無防備な表情をオレは今でも忘れる事が出来ない・・・
この人こそ、オレの目指すべき人なのだとそう確信した・・・
そして、この人の事をもっと知りたいと・・・そう思った、、、
END